毎日を編むブログ

かごについて調べ、考え、編んでいます。

絵画の中のかご①オランダ絵画の黄金時代の静物画

華々しい絵画を見つけました。

f:id:chibie50:20170124122515p:plain

File:Jacques Linard - Basket of Flowers - WGA13045.jpg - Wikimedia Commons

17世紀前半にフランスで活躍した画家、ジャック・リナール (Jacques Linard 1597–1645)の「籠の花」です。

ずいぶん昔の絵だったのですね。

日本では江戸時代がやっと始まった頃ですもんね。

 

 

 

たくさんの種類の花の全部が全部咲き誇っていて、かごの内部にある花さえも全部が全部こちらを向いていて、四角いキャンバスを四角く埋め尽くすような勢いの構図で描かれています。 

賑々しく押しが強く、赤の印象が強い絵ですけど意外と白の分量も多かったり黄色や青が少しずつ使われていたり、かごが透かし編みの軽やかなものだから不思議な爽やかさも加わったりして独特の浮き立つような感じがあります。

現実味は薄くても花の美しさを表現したい気持ちが伝わってくるよう。

私が気になるかごも色付きの横桟を使っていたり足がついていたりする、ちょっと素敵なものです。

 

 

 

リナールさんのほかのかごの絵も見てみたいと思ったのですが、ほかはほとんど花瓶の花でした。

そのかわり、かごに盛られたフルーツの絵はたくさん。

こう並べてみるとフルーツのかごはオーソドックスな素編みタイプ。

絵の雰囲気も落ち着いていて、わりと写実的な普通の絵のように思います。

f:id:chibie50:20170124124034p:plain

Still Life with Fruit 1336243 | National Trust Collections

f:id:chibie50:20170126103320p:plain 

Still Life of Earthenware Jug and Basket of Apples 1336244 | National Trust Collections

f:id:chibie50:20170124124631p:plain

Louvre Museum Official Website

 

調べていくうちに、似たような構図の同じようなかごに入った花の絵がこの時代(17世紀前半)、かなり描かれていることに気が付きました。 

これはほぼ同時期のJohannes Bosschaert(ヨハネス・ボスハールト 1606– 1628)の絵。

ディテールはちょっと違うけど似た形のかご、入っている花の種類も似ています。

f:id:chibie50:20170124131037p:plain

File:Bosschaert Johannes 02.jpg - Wikimedia Commons

こちらは空間の使い方、構図がリナールに近いです。

f:id:chibie50:20170124215327j:plain

Corbeille de fleurs disposée sur un entablement près doiseaux by Johannes Bosschaert on artnet

 

このヨハネスさんのお父さんというのがオランダ絵画の黄金時代の静物画家として有名なアンブロジウス・ボスハールト(Ambrosius Bosschaert 1573-1621)。

f:id:chibie50:20170125114520p:plain

Category:Google Art Project works by Ambrosius Bosschaert the Elder - Wikimedia Commons

スーパーリアルイラストレーションみたいで自然な花の生な感じはあまり感じられない絵です。

かごの質感、かご編みの技巧の描写はちょっと曖昧かな。

f:id:chibie50:20170125114811p:plain

A STASI Legacy or Ghosts of Christie's Past - Art Antiques Design

 

そしてアンブロジウスさんの義弟で後に工房を継いだバルタザール・ファン・デル・アスト(Balthasar van der Ast 1594–1657)の絵。

花瓶の花を縦位置で描くことが多かったアンブロジウスに比べると横位置でかごに入れられた花の絵をたくさん描いています。

このパターンがこの一族の得意技になっていったのですね。

そしてフランスのリナールに影響を与えたのだと思われます。

f:id:chibie50:20170125120216p:plain

ファイル:Basket-flowers-1622.jpg - Wikipedia

絵のタッチはアンブロジウスさんに近い。

花の絵に貝などを書き入れることを始めた画家のうちの一人なのだそうで静物画に時折出てくるいわゆる「ヴァ二タス」みたいな雰囲気も出てきているんじゃないかと思います。

かごの描写には重きをおいてない感じ。

f:id:chibie50:20170125120754p:plain

File:Still Life with Basket of Fruit - Balthasar van der Ast - Google Cultural Institute.jpg - Wikimedia Commons

f:id:chibie50:20170126103620p:plain

Balthasar van der Ast - Wikipedia

f:id:chibie50:20170125120552p:plain

Balthasar van der Ast - Wikipedia

 

17世紀のオランダでは、王侯貴族が全てを支配していた時代から貿易や商工業で財を成した裕福な商人が力を持つ時代への移行がすでに始まっていました。

教会や貴族のためでなく、市民のための絵画が多く描かれるようになってきた時代なのですね。

もちろん庶民の生活ではこんな大量の花を飾るようなことはないでしょうから、贅沢なものとして描かれた絵ではあったと思いますが、偉い人や宗教の世界感を構成するパーツとして描かれていた花が、普通の暮らしの一隅を照らすような絵の題材となっていくのと同時に、宗教画や歴史画に比べてまだ地位が低かった静物画が少しずつ存在感を増していったということでしょうか。 

かごに盛られているスタイルはやはり骨董的な花瓶に比べるとカジュアルで王侯貴族感は全くないですもんね。

今風でさえあります。

だから作成時期のクレジットを見て驚いたわけですけど。

 

 

 

静物画自体、絵画の歴史の主役ではないけれど、ヨーロッパでは花かごの絵がこうして大きな流れの中にチラホラと存在していて、美しいもの、可愛らしいものという典型的な存在になっていったのだと思われます。

だから200年300年ののち、女性の胸元を飾るブローチの人気モチーフに姿を変えることもできたのですね。

絵画が庶民の方に降りてきたことで生まれた花かごモチーフが、最終的には英国女王陛下の胸元を飾る存在になるのですから、わからないものです。

  

www.zumibasket.com