毎日を編むブログ

かごについて調べ、考え、編んでいます。

「魚籃観音」、バスケットを持った観音様。

「魚籃(ぎょらん)」、というのは「魚籠(びく)」と似た意味の言葉で、漁業につかうかご、魚を入れるかごのことです。 

そんなかごの名前がついた「魚籃観音」という観音様がいることを、最近知りました。その名のとおりかごを持って立っていらっしゃるのです。

 

結構日本中にあるみたいなんですが、今、たぶん世の中的にいちばん知られているのはこちらじゃないかと思います。

f:id:chibie50:20170310184334p:plain

Kannon Bodhisattva (Bosatsu) -  Japanese Buddhism Art History

小田原にある東善院の厄除け魚籃観音です。高台の上に立つ真っ白で巨大な姿は、新幹線や東海道線の車窓からも見えるそうです。

各地で見かける、わりと新しめの巨大観音像に雰囲気は似ていますが、バスケットを持ってることに気づくと、あれっ!と思いますよね。よく見ると尾びれ出ていますし。

なぜバスケットを持っているのでしょうか。

 

魚籃観音とは仏法を広めるために現れた、魚を商う美女に化身した観音様なのだそうです。あまねく衆生を救済するために、観音様が臨機応変に33の姿に変身するという、三十三観音説のうちの一つの姿です。

 

それゆえ魚籃、魚籠を持っている。もしくは魚の背に乗っている。

大漁や海上安全を祈念したり、魚介類に感謝し供養するための観音像なのです。

 

 

調べてみますと、こんな仏像らしい仏像という感じの魚籃観音もありますし(滋賀県 鶏足寺)

f:id:chibie50:20170310225001j:plain

その伍 鶏足寺(木之本) 観音包む豊かな自然 : 地域 : 読売新聞

 

謎のポーズの像もありますし(長野県 正永寺)

f:id:chibie50:20170310203901p:plain

http://www.shoeiji.jp/

 

お地蔵さん風のものや (新宿区 蓮乗院)

f:id:chibie50:20170311120345p:plain

道祖神風(?)のものも。(文京区 護国寺)

f:id:chibie50:20170311120429p:plain

西郊民俗談話会

(↑こちらのホームページでかなり詳しい考察が読めます。)

 

ずいぶん様々な姿です。仏像に詳しくないので素人感覚ですけど、女性らしい姿で魚籃さえ持っていれば大丈夫な感じ。

魚籃観音にまつわるお話が、なんとなく艶っぽく親しみを感じるものだから、人々に広く受け入れられやすく、よく知られたお話に合わせて様々な様式で像が作られたんじゃないでしょうか。 

美女の話が仏像になるとおばちゃんぽく落ち着いてしまうのも、なんとなく親しめる。

高名な仏師作の美術史に名を刻むような仏像とは対照的に、民間伝承的に広まって民間信仰的に身近な感じで愛されてきたのではないかな、と思います。 

バスケットを持っている姿というのが、わかりやすくてやっぱり可愛い。 

三十三観音が仏画など以外で単独の仏像になるのは稀なことだそうなので、こうやって魚籃観音が作られてきたのは、人の口の端に上りやすいエピソードとバスケットを持ったお姿があったからだと思います。

  

調べる過程で「まんが日本昔ばなし」にも魚籃観音のお話があることがわかりました。

まんが日本昔ばなし〜データベース〜 - 魚籃の観音

f:id:chibie50:20170310210627p:plainf:id:chibie50:20170310210614p:plain

漁師の男が流れついた魚籃観音像を拾うお話なので、この昔話が話されていた時点ですでにその存在がよく知られていたのでしょうね。

  

お買い求めにもなれます。

f:id:chibie50:20170310204348p:plain

香萱 魚籃観音 / 龍祥

f:id:chibie50:20170310204906p:plain

高村光雲『魚籃観音』【アート静美洞】

  

ところで、私が魚籃観音について知ったのは、「北斎漫画」の中のこの絵を見たからでした。

見開き2ページにまたがる縦位置の絵。葛飾北斎「魚濫観世音(ぎょらんかんぜおん)」です。 

魚濫って魚籃だろうか、と引っ掛かったわけです。

f:id:chibie50:20170310180139p:plain

teachartwiki - Gyoran Kannon- Katsushika Hokusai

「魚籃」の籃はかごという意味ですが、この絵のタイトルの「濫」は竹かんむりが無くてさんずいが付いています。水の「氾濫」の濫ですね。

北斎の絵のタイトルは敢えて字を変えたのでしょうか。それともそういう言い方もあったのでしょうか。 

かごを持っていないみたいに見えますし、「氾濫」の「濫」、「みだり」の「濫」、大鯉に乗ってビッグウェーブを超えるようなこの絵には合ってますね。

 

余談ですが魚籃観音像は、刺青によく採用されるモチーフなのだそうです。

深く調べたり写真をリンクするのはやめておきますが、ベースにあるのはやはり北斎の絵のようです。

昇り龍と通じるところのある、絵の勢いと構図、鱗の感じと、プラス妖艶さもポイントではないでしょうか。

  

そしてこちらは、2014年に京都の東寺で催された「漫画家による仏の世界展」のために江口寿史氏が書き下ろした「私訳魚籃観音之図」です。

f:id:chibie50:20170310205406p:plain

http://webfreestyle.com/shop/eguchigiclee5.html

現代の摺師の方によって作成される100部限定の浮世絵です。

背景は北斎の絵とほぼ同じ構図ですが、今風の美女です。

ここでは敢えて再び、しっかりとバスケットを持たせて頂いています。

 

Tシャツにも。

バシッと決まった絵柄は、刺青ではないですが身にまといたくなりますね。

魚籃観音 2014年05月03日_P5030643

魚籃観音 2014年05月03日_P5030643 posted by (C)poco